目標
カゼインプラスチックを合成することでプラスチックが合成されて作られていることを実感し、またろ過操作を習得する
教育上期待する効果
プラスチックは身の回りに溢れているが多くは石油を原料にする上に温和な条件下で合成できない。ところが生分解性プラスチックであるカゼインプラスチックは常温常圧で無触媒で合成可能である。合成過程を体験することで、プラスチックが人工的に合成されて生産されているものであることを体感する。
高等学校化学では高分子合成についても触れる。この際この実験でカゼイン(モノマー)が寄り集まって(重合)カゼインプラスチック(ポリマー)ができたことを思い出せれば理解が早まると思われる。
実験操作にはろ過作業が含まれる。必要なもののみろ過で取り出し洗浄するというのは合成の基本操作であり、観察・実験の技能に含まれる。
具体的な活用法
中学校1年理科では無機物・有機物の区分、金属の性質と並んでプラスチックについて指導する。プラスチック、特に合成樹脂は日常の様々なところで利用されており、生徒の筆箱の中にすら多くの合成樹脂を見つけることができることを学ぶ。またプラスチック製品が引き起こす環境問題についても学び、その中で生分解性プラスチックが取り上げられる。
その後に当実験を実施することが望ましい。
試薬(材料)
- 成分無調整牛乳: 200 ml
- 醸造酢: 20 ml
牛乳はカゼイン供給源として用いる。
器具
計量スプーンはメスシリンダーの代用として利用した。
実験手順
500 mlガラス製計量カップを鍋底につけた状態で200 mlの線付近まで鍋に水を入れ、計量カップを取り出して沸騰させた。
500 mlガラス製計量カップで成分無調整牛乳200 mlを量り取り、沸騰した鍋に入れて湯煎した。このとき小皿を乗せて牛乳の蒸発を防止した。
5分間湯煎を続けた後、醸造酢を15 ml計量スプーンと5 ml計量スプーンを用いて20 ml量り取り、加えた。
5 ml計量スプーンで軽く撹拌した。
湯煎を外した。
ガーゼをコップに被せて、ガーゼがずれないように輪ゴムで固定し重力ろ過装置を組み立て、ろ過を行った。
ガーゼを500 mlガラス製計量カップに付け替え、輪ゴムで固定し、水道水を少量ずつ300 mlを使って洗浄した。
クレラップをしき、個体を長方形状に敷き詰めた。キッチンペーパーを上から重ねて十分に体重をかけるようにして圧縮脱水した。
電子レンジのオーブン機能で100℃以下を設定し1時間、電子レンジで1分、さらにオーブン機能で30分程度加熱した。
結果と考察
オーブンで加熱しただけでは十分乾燥できず、電子レンジを利用したときに急激に水蒸気が発生して破裂音が生じ表面にヒビが入った。また同時に油状のものが発生した。参考文献1の報告によれば、無脂肪乳ではサラサラとした手触り、濃い牛乳ではベトベトした手触りだったとあることから乳脂肪分が表面に出てきたものと考えられる。また表面が焦げたようになっているのもこの油分が局所的に熱変性したものと考えられる。すなわち、このベタつきをなくすためには、醸造酢を加える前に食塩水などの極性溶媒を投入して分液する等の操作によって乳脂肪分を取り除く必要があった。
醸造酢を加えたことで固体が分離したのは等電点沈殿によるものと考えられる。牛乳に含まれるカゼインは分子間の静電気的反発によって凝集できずコロイドとして存在している。しかしpHが変動し等電点になったときはこの静電気反発による斥力が失われvan der Waals引力を打ち消すものがなくなるため、粒子が大きくなり沈殿する。van der Waals引力は分子間では $ \frac {1} {(分子間距離) ^ 6} $ に比例するが、コロイドでは $ \frac {1} {(分子間距離) ^ 1} $ に比例する。
この授業で必要とするワークシートやプリントの例示
末尾に添付。